これも造作はありません。わたしはあの夫婦と途づれになると、向こうの山には古塚がある、この古塚を発いてみたら、鏡や太刀が沢山出た、わたしは誰も知らないように、山の陰の藪の中へ、そういう物を埋めてある、もし望み手があるならば、どれでも安い値に売り渡したい、――という話をしたのです。男はいつかわたしの話に、だんだん心を動かし始めました。それから、――どうです。欲というものは恐ろしいではありませんか? それから半時もたたない内に、あの夫婦はわたしといっしょに、山路へ馬を向けていたのです。
わたしは藪の前へ来ると、宝はこの中に埋めてある、見に来てくれと言いました。男は欲に渇いていますから、異存のある筈はありません。が、女は馬も下りずに、待っていると言うのです。またあの藪の茂っているのを見ては、そう言うのも無理はありますまい。わたしはこれも実をいえば、思う壺にはまったのですから、女一人を残したまま、男と藪の中へはいりました。
藪はしばらくの間は竹ばかりです。が、半町ほど行った処に、やや開いた杉むらがある、――わたしの仕事を仕遂げるのには、これほど都合の好い場所はありません。わたしは藪を押し分けながら、宝は杉の下に埋めてあると、もっともらしい嘘をつきました。男はわたしにそう言われると、もう痩せ杉が透いて見える方へ、一生懸命に進んで行きます。その内に竹が疎らになると、何本も杉が並んでいる、――わたしはそこへ来るが早いか、いきなり相手を組み伏せました。男も太刀を佩いているだけに、力は相当にあったようですが、不意を打たれてはたまりません。たちまち一本の杉の根がたへ、括りつけられてしまいました。縄ですか? 縄は盗人の有り難さに、いつ塀を越えるかわかりませんから、ちゃんと腰につけていたのです。勿論声を出させないためにも、竹の落葉を頬張らせれば、ほかに面倒はありません。
--おわり--