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しばらくすると、主人は私を手まねで、彼の皿のところへ来い、と招きました。しかし、なにしろ私はテーブルの上をビクビクしながら歩いているのでしたから、パンの皮に躓くと、うつ伏せに、ペたんと倒れてしまいました。けれども、怪我はなかったのです。すぐに起き上がりましたが、みんながひどく心配してくれるので、私は小脇にかかえていた帽子を手に取り、頭の上で振りながら、「万歳!」と叫びました。これは転んでも、怪我はなかったということを、みんなに知ってもらうためでした。そのとき、主人の隣に座っていた、一番下の息子で、まだ十ばかりのいたずら児が、私の方へ手を伸ばしたかとおもうと、いきなり、私の両足をつかまえ、宙に高くぶら下げました。私は手も足も、ブルブルふるえつづけました。しかし、主人は息子の手から、私を取り上げ、同時に彼の左の耳をピシャリと殴りつけました。それは、ヨーロッパの騎兵なら、六十人ぐらい叩きつけてしまいそうな殴り方でした。それから主人は息子に、向こうへ行ってしまえ、と命令するのでした。
--おわり--
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