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私は箱の一番奥の隅へ逃げ込んでいましたが、猿が四方からのぞきこむので、怖くてたまりません。すっかりあわてていたので、ベッドの下に隠れることにも気がつかなかったのです。猿は、のぞいたり、歯をむき出したり、ムニャムニャしゃべったりしていましたが、とうとう、私の姿を見つけると、ちょうどあの猫が鼠にするように、戸口から片手を伸ばしてきました。私はうまく避けまわっていたのですが、とうとう上衣の垂れをつかまれて、引きずり出されました。彼は私を右手で抱き上げると、ちょうどあの乳母が子供に乳房をふくませるような恰好で私をかかえました。私があがけばあがくほど、猿は強くしめつけるので、これは、じっとしていた方がいいと思いました。一方の手で、猿は何度も、やさしげに私の顔をなでてくれます。てっきり私を同じ猿の子だと勘違いしてるのでしょう。こうして、彼がすっかりいい気持ちになっているところへ、突然、誰か部屋の戸を開ける音がしました。すると、彼は急いで窓の方へ駆けつけ、三本足でとっとと歩きながら、一本の手では私を抱いたまま、樋を伝って、とうとう隣の大屋根までよじのぼってしまいました。
--おわり--
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