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十月早稲田に移る。伽藍のような書斎にただ一人、片づけた顔を頬杖で支えていると、三重吉が来て、鳥を御飼いなさいと言う。飼ってもいいと答えた。しかし念のためだから、何を飼うのかねと聞いたら、文鳥ですという返事であった。文鳥は三重吉の小説に出て来るくらいだから奇麗な鳥に違いなかろうと思って、じゃ買ってくれたまえと頼んだ。ところが三重吉は是非御飼いなさいと、同じような事を繰り返している。うむ買うよ買うよとやはり頬杖を突いたままで、むにゃむにゃ言ってるうちに三重吉は黙ってしまった。おおかた頬杖に愛想を尽かしたんだろうと、この時初めて気がついた。
すると三分ばかりして、今度は籠を御買いなさいと言いだした。これも宜しいと答えると、是非御買いなさいと念を押す代わりに、鳥籠の講釈を始めた。その講釈はだいぶ込み入ったものであったが、気の毒な事に、みんな忘れてしまった。ただ好いのは二十円ぐらいするという段になって、急にそんな高価のでなくっても善かろうと言っておいた。三重吉はにやにやしている。
--おわり--
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