夢十夜 43/53 (夏目漱石)
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 第九夜

 世の中が何となくざわつき始めた。今にも戦争が起こりそうに見える。焼け出された裸馬が、夜昼となく、屋敷の周囲を暴れ回ると、それを夜昼となく足軽共が犇めきながら追っかけているような心持ちがする。それでいて家のうちは森として静かである。
 家には若い母と三つになる子供がいる。父はどこかへ行った。父がどこかへ行ったのは、月の出ていない夜中であった。床の上で草鞋を穿いて、黒い頭巾を被って、勝手口から出て行った。その時母の持っていた雪洞の灯が暗い闇に細長く射して、生垣の手前にある古い檜を照らした。
--おわり--