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さてここまでは来たが、筑紫の果てへ往くことを思えば、まだ家を出たばかりと言ってよい。これから陸を行ったものであろうか。または船路を行ったものであろうか。主人は船乗りであってみれば、定めて遠国のことを知っているだろう。どうぞ教えてもらいたいと、子供らの母が頼んだ。大夫は知れきったことを問われたように、少しもためらわずに船路を行くことを勧めた。陸を行けば、じき隣の越中の国に入る界にさえ、親不知子不知の難所がある。削り立てたような巌石の裾には荒浪が打ち寄せる。旅人は横穴にはいって、波の引くのを待っていて、狭い巌石の下の道を走り抜ける。そのときは親は子を顧みることが出来ず、子も親を顧みることが出来ない。それは海辺の難所である。また山を越えると、踏まえた石が一つ揺るげば、千尋の谷底に落ちるような、あぶないそわ道もある。
--おわり--
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