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私を囲んでいた友人たちは、これだけでも、もう荒胆をひしがれたのでしょう。皆顔を見合わせながらうっかり側へ寄って火傷でもしては大変だと、気味悪そうにしりごみさえし始めるのです。そこで私の方はいよいよ落ち着き払って、その掌の上の石炭の火を、しばらく一同の眼の前へつきつけてから、今度はそれを勢いよく寄木細工の床へ撒き散らしました。その途端です、窓の外に降る雨の音を圧して、もう一つ変わった雨の音がにわかに床の上から起こったのは。と言うのはまっ赤な石炭の火が、私の掌を離れると同時に、無数の美しい金貨になって、雨のように床の上へこぼれ飛んだからなのです。
友人たちは皆夢でも見ているように、茫然と喝采するのさえも忘れていました。
「まずちょいとこんなものさ。」
私は得意の微笑を浮かべながら、静かにまた元の椅子に腰を下ろしました。
--おわり--
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