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すると大官は肥満した体を開いて、二人を先へ通らせながら、呆れたような視線を明子へ投げた。初々しい薔薇色の舞踏服、品よく首へかけた水色のリボン、それから濃い髪に匂っているたった一輪の薔薇の花――実際その夜の明子の姿は、この長い辮髪を垂れた支那の大官の眼を驚かすべく、開化の日本の少女の美を遺憾なく具えていたのであった。と思うとまた階段を急ぎ足に下りて来た、若い燕尾服の日本人も、途中で二人にすれ違いながら、反射的にちょいと振り返って、やはり呆れたような一瞥を明子の後ろ姿に浴びせかけた。それから何故か思いついたように、白いネクタイへ手をやってみて、また菊の中を忙しく玄関の方へ下りて行った。--おわり--
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