妖影 30/30 (大倉燁子)
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 愛国心に燃ゆる我々が、ある目的のため危険を冒す場合に演じる一幕は、役者が命がけでやっている芸なのですから、見物人が魂を奪われたって仕方がありますまい。しかもあなたの場合は薬まで飲まされているのですから――。多分罪にはなるまいと思います。またそうあろうことを希望してやみません。一時にせよお互いはよいお友達であったのですから。
 無断で拝借した暗号はなるべく早くお返しするようにいたします。それまであなたが今のまま安らかに眠りつづけていて下すったら――、と念じつつ――』
 そこまで読むと私はその紙片をびりびりに引き裂いて床の上にたたきつけ、扉を開けて外へ出た。
「お待ちどおさまでした、さあお伴いたしましょう」
 同僚と一緒に桟橋を降りると、そこに待たせてあった自動車に乗った。
--おわり--