深夜の客 32/39 (大倉燁子)
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「譲治はだんだん気が落ちついて来ると、余りにも恐ろしい罪に戦きました。とっさの間に人間を二人も殺し、しかも、一人は命にも代え難い愛妻なのです。親友はあのごたごたの始まる前に逃げ帰ったと見えて、警官が来た頃には姿は見えませんでした。血の海の中に彼は一人ぽかんと、失神したように短刀を握っていたのです」
「短刀を渡したのはその親友ではなかったのですか?」
「あるいは?――と考えないではなかったのですが、短刀は自分のものだし、何の証拠もないことだし、――どうすることも出来ませんでした。それに、その後の親友は実に至れりつくせりの親切ぶりを示してくれましたので――。弁護士を頼むことから、減刑運動から、女の子を手許に引き取って立派な令嬢に仕上げてやるという約束までしてくれました。兄弟だって、これほどまでにつくしてはくれまいと思うほどだったのです。
--おわり--