舞踏会殺人事件 24/63 (坂口安吾)
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 西洋博士、日本美男子、紳士探偵、結城新十郎の名は津々浦々になりひびき、新聞の人気投票日本一、警視庁は、探偵長に迎えたいと頼んできたが、キュウクツな務めは大キライとあって、オコトワリに及んだが、しかし彼も好きな道、雇いという軽い肩書きで、大事件の通報一下、出馬して神業の心眼をはたらかすことになっている。この通報に駆けつけて案内に立つ係が古田鹿蔵老巡査である。
 ところが、新十郎の左隣の住人を、花廼屋因果と言って、ちょっと名の知れた戯作者だ。戯作者などというものは、主として江戸大阪生まれの人間がやるものだが、花廼屋は薩摩ッポウで、鳥羽伏見の戦争ではワラジをはいて、大刀をふり回して、ソレ、駆けこめ、駆けこめ、と、上野寛永寺まで駆けこんできた鉄砲組の小隊長であった。
 どういう因果か、この男は小説が好きだ。
--おわり--