舞踏会殺人事件 37/63 (坂口安吾)
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 新十郎は車夫をよんだ。
「御主人はおそく戻られたそうだが、どこへお連れしたのだえ?」
「烏森の夕月でした。何御用かは存じ上げません。ただ、お帰りのときに、まさか人のイタズラとは思われないが、生きているなら、どうして来ないのだろう。来ないワケはないがなあ、とおっしゃっていました。夕月の女将に、誰それが見えたら、使いをよこすように、とおっしゃってたようです」
 訊問をうちきって、一行が帰りかけると、広間の階段の陰から現れた花のような娘があった。娘はツカツカと一行の前へすすみでて大胆に新十郎を見つめて、
「あなたが、大探偵?」
 新十郎はまぶしそうに笑った。
「犯人は分かりましたか?」
 娘はたたみこんだ。
「残念ながら、手のつけようがありません」
 新十郎が神妙に答えると、娘の目はもえるように閃いた。
「私、気絶していましたから、お父さまの死になさるのを見ておりませんが、虚無僧姿の田所様が介抱なさったそうですね」
「おっしゃる通りです」
--おわり--