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「本当に誰もいじらないね」「決していじる筈はございません。それを入れておく戸棚は御前様専用のもので、今日は戸棚に手をふれたものもなかった筈でございます」
「そうだろうね。ところが、たった一人、この壺をいじった人がいるのだよ。この中の梅干しは昨日は六つ残っていたが、今日は八つになっているよ」
お絹は驚いて顔色を変えた。新十郎は慰め顔に、
「ナニ、お前に悪いところはないのさ。ところで、梅干しの大きな壺はどこにあるね」
「御前様のものは全部同じ戸棚にございます」
戸棚をあけると、一番下に梅干し用の大壺が四つもあった。
「それでは、お嬢様にお目通りさせていただきましょう」
彼らはお梨江の居室へみちびかれた。新十郎は鄭重に挨拶して、
「昨夜の不快を思いだしていただいては恐縮ですが、お嬢さまがおくれて会場へおいでになったについては、なにか理由がございますか」
--おわり--
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