夜長姫と耳男 30/79 (坂口安吾)
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この疑いがはれてしまえば、あとは気にかかるものもない。オレは言ってやった。
「御親切は痛みいるが、それには及びますまい」
「うてぬか」
 オレはスックと立ってみせた。斧をとってズカズカと進み、エナコの直前で一睨み、凄みをきかせて睨みつけてやった。
 エナコの後ろへまわると、斧を当てて縄をブツブツ切った。そして、元の座へさっさと戻ってきた。オレはわざと何も言わなかった。
 アナマロが笑って言った。
「エナコの死に首よりも生き首がほしいか」
 これをきくとオレの顔に血がのぼった。
「たわけたことを。虫ケラ同然のハタ織り女にヒダの耳男はてんでハナもひっかけやしねえや。東国の森に棲む虫ケラに耳をかまれただけだと思えば腹も立たない道理じゃないか。虫ケラの死に首も生き首も欲しかあねえや」
--おわり--