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泣きべそかいているのだ。あきらかに恐怖の情である。そうか、と苦々しく私は、くるりと回れ右して、落ち葉しきつめた細い山路を、まったくいやな気持ちで、どんどん荒く歩きまわった。それからは、気をつけた。娘さんひとりきりのときには、なるべく二階の部屋から出ないようにつとめた。茶店にお客でも来たときには、私がその娘さんを守る意味もあり、のしのし二階から降りていって、茶店の一隅に腰をおろしゆっくりお茶を飲むのである。いつか花嫁姿のお客が、紋付きを着た爺さんふたりに付き添われて、自動車に乗ってやって来て、この峠の茶屋でひと休みしたことがある。そのときも、娘さんひとりしか茶店にいなかった。私は、やはり二階から降りていって、隅の椅子に腰をおろし、煙草をふかした。
--おわり--
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