おぎん 7/15 (芥川龍之介)
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しかし彼等のけなげなさまには、少なからず腹を立てたらしい。悪魔は一人になった後、忌々しそうに唾をするが早いか、たちまち大きい石臼になった。そうしてごろごろ転がりながら闇の中に消え失せてしまった。
 じょあん孫七、じょあんなおすみ、まりやおぎんの三人は、土の牢に投げこまれた上、天主のおん教えを捨てるように、いろいろの責め苦にあわされた。しかし水責めや火責めにあっても、彼等の決心は動かなかった。たとい皮肉は爛れるにしても、はらいそ(天国)の門へはいるのは、もう一息の辛抱である。いや、天主の大恩を思えば、この暗い土の牢さえ、そのまま「はらいそ」の荘厳と変わりはない。のみならず尊い天使や聖徒は、夢ともうつつともつかない中に、しばしば彼等を慰めに来た。殊にそういう幸福は、一番おぎんに恵まれたらしい。
--おわり--