死後の恋 39/52 (夢野久作)
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 五

 森の入口の柔らかい芝草の上に私が這い上がった時には、もうすっかり日が暮れて、大空が星だらけになっておりました。泥まみれになった袖口や、ビショビショに濡れた膝頭や、お尻のあたりからは、冷気がゾクゾクとしみ渡って来て、鼻汁と涙が止めどなく出て、どうかするとくしゃみが飛び出しそうになるのです。それを我慢しいしい草の上に身を伏せながら、耳と眼をジッと澄まして動静をうかがいますと、この森は内部の方までかなり大きな樹が立ち並んでいるらしく、星明かりに向こうの方が透いて見えるようです。しかも、いくら眼を見張り、耳を澄ましても人間の声はおろか、鳥の羽ばたき一つ、木の葉のすれ合う音すらきこえぬ静けさなのです。
--おわり--