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そんな事を考え続けているうちに、私はふと何か思い立ったように立ち上がりながら、小屋のそとへ出て行った。そうしていつものようにヴェランダに立つと、ちょうどこの谷と背中合わせになっているかと思われるようなあたりでもって、風がしきりにざわめいているのが、非常に遠くからのように聞こえて来る。それから私はそのままヴェランダに、あたかもそんな遠くでしている風の音をわざわざ聞きに出でもしたかのように、それに耳を傾けながら立ち続けていた。私の前方に横たわっているこの谷のすべてのものは、最初のうちはただ雪明かりにうっすらと明るんだまま一塊になってしか見えずにいたが、そうやってしばらく私が見るともなく見ているうちに、それがだんだん目に慣れて来たのか、それとも私が知らず識らずに自分の記憶でもってそれを補い出していたのか、いつの間にか一つ一つの線や形を徐に浮き上がらせていた。--おわり--
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