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が、何分前にも申し上げました通り、横紙破りな男でございますから、それがかえって良秀は大自慢で、いつぞや大殿様がご冗談に、「その方はとかく醜いものが好きとみえる。」と仰った時も、あの年に似ず赤い唇でにやりと気味悪く笑いながら、「さようでござりまする。かいなでの絵師には総じて醜いものの美しさなどと申す事は、わかろうはずがございませぬ。」と、横柄にお答え申し上げました。いかに本朝第一の絵師に致せ、よくも大殿様の御前へ出て、そのような高言が吐けたものでございます、先刻引き合いに出しました弟子が、内々師匠に「知羅永寿」という渾名をつけて、増長慢をそしっておりましたが、それも無理はございません。ご承知でもございましょうが、「知羅永寿」と申しますのは、昔震旦から渡って参りました天狗の名でございます。しかしこの良秀にさえ――この何ともいいようのない、横道者の良秀にさえ、たった一つ人間らしい、情愛のある所がございました。
--おわり--
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