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それがどうもあの男の眼の中には、娘の悶え死ぬ有様が映っていないようなのでございます。ただ美しい火炎の色と、その中に苦しむ女人の姿とが、限りなく心を悦ばせる――そういう景色に見えました。しかも不思議なのは、何もあの男が一人娘の断末魔を嬉しそうに眺めていた、そればかりではございません。その時の良秀には、なぜか人間とは思われない、夢に見る獅子王の怒りに似た、怪しげな厳かさがございました。でございますから不意の火の手に驚いて、啼き騒ぎながら飛びまわる数の知れない夜鳥でさえ、気のせいか良秀の揉み烏帽子のまわりへは、近づかなかったようでございます。
--おわり--
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