死刑の前 6/30 (幸徳秋水)
410 0 0 00:00
文字数 入力 誤字
この場所に読みがなや入力のヒントが表示されます
彼らは、明白に意識せるといなとは別として、彼らの恐怖の原因は、別にあると思う。
 すなわち、死ということにともなう諸種の事情である。その二、三をあげれば、(第一)天寿をまっとうして死ぬのでなく、すなわち、自然に老衰して死ぬのでなくして、病疾その他の原因から夭折し、当然うけるであろう、味わうであろう生を、うけえず、味わいえないのをおそれるのである。(第二)来世の迷信から、その妻子・眷属にわかれて、ひとり死出の山、三途の川をさすらい行く心ぼそさをおそれるのもある。(第三)現世の歓楽・功名・権勢、さては財産をうちすてねばならぬのこり惜しさの妄執にあるのもある。(第四)その計画し、もしくは着手した事業を完成せず、中道にして廃するのを遺憾とするのもある。(第五)子孫の計がいまだならず、美田をいまだ買いえないで、その行く末を憂慮する愛着に出るのもあろう。(第六)あるいは単に臨終の苦痛を想像して、戦慄するのもあるかも知れぬ。
--おわり--