途上 12/39 (谷崎潤一郎)
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「驚きましたな、どうも。さすがご職掌柄で何もかもご存知ですな。そんなに知っていらっしゃるならもうお調べになるところはなさそうですよ」
「あはははは、そうおっしゃられると恐縮です。何分これで飯を食っているんですから、まあそんなにイジメないで下さい。――で、あの筆子さんのご病身のことについてですが、あの方はチフスをおやりになる前に一度パラチフスをおやりになりましたね、……ええと、それはたしか大正六年の秋、十月頃でした。かなり重いパラチフスで、なかなか熱が下がらなかったので、あなたが非常にご心配なすったということを聞いております。それからその明くる年、大正七年になって、正月に風邪を引いて五、六日寝ていらしったことがあるでしょう」
「ああそうそう、そんなこともありましたっけ」
--おわり--