▲ | 382 | 0 | 0 | 00:00 | ▼ |
文字数 | 入力 | 誤字 |
登はわれに返り、その青年のあとから門番小屋へ近づいていった。彼が門番に名を告げていると、青年が戻って来て、保本さんですかと問いかけた。彼はうなずいた。「わかってる」と青年は門番に言った、「おれが案内するからいい」
そして登に会釈して、どうぞと気取った一揖をし、並んで歩きだした。
「私は津川玄三という者です」と青年があいそよく言った、「あなたの来るのを待っていたんですよ」
登は黙って相手を見た。
「ええ」と津川は微笑した、「あなたが来れば私はここから出られるんです、つまりあなたと交代するわけなんですよ」
登は訝しそうに言った、「私はただ呼ばれて来ただけなんだが」
「長崎へ遊学されていたそうですね」と津川は話をそらした、「どのくらいいっておられたんですか」
「三年とちょっとです」
登はそう答えながら、三年、という言葉にまたちぐさのことを連想し、するどく眉をしかめた。
--おわり--
▲ | ▼ |