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親のちからもあったろうが、娘は罪にならなかった。殺された相手は店の使用人であり、主人の娘の寝間へ忍びこんだうえ手ごめにしようとした。表面はそのとおりだし、死人に口なしでそのままにすんだ。しかし三人めの手代が命びろいをして、初めて事情がわかり、新出去定が呼ばれた。去定は座敷牢を造って監禁しろと言った。さもなければ、必ず同じようなことがくり返し行われるだろう。ほかの狂気とちがって色情から起こるものであり、その他の点では常人と少しも変わらないから、監禁する以外にふせぎようはないと主張した。しかし、家族や使用人の多い家なので、座敷牢を造ったり、そこへ監禁したりすることは世間がうるさい。養生所の中へ家を建てるから、そちらで治療してもらえまいか、と親が言った。娘の狂気が治るにしろ、不治のまま死ぬにしろ、その建物は養生所へそのまま寄付するし、入費はいくらでも出す。そういうことで、一昨年の秋に家を建て、お杉という女中を連れて、娘が移って来たのであった。--おわり--
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