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「あなたがお医者さまだから言えるんです」とお杉はしゃがれた声でささやいた、「そうでなければとてもこんなこと話せやあしません、そこをわかって下さいましね」「わかってる」彼は頭がちょっとふらふらするのを感じた、「それに、子供どうしの悪戯なんて珍しいことじゃないよ」
お嬢さんの場合は違うのだとお杉は言った。
おゆみは九つのとき、三十幾つかになる手代に悪戯をされ、もしこのことを人に言ったら殺してしまう、とおどされた。自分のからだの感じた異様な感覚も、幼いながら罪なことのように思われたし、人に言うと「殺してしまう」という言葉が、おゆみをかなしばりにした。その手代は半年ばかりして店を出されたが、出されるまでいくたびも同じようなことをし、そのたびに同じおどしの言葉をささやいた。それがおゆみの頭に深い傷のように残ったらしい、――手代が出されてから二年ほどたって、隣の家の二十四五の若者に、手代とは変わった仕方で悪戯をされた。
--おわり--
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