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登はまだけげんそうな顔で、黙って去定を見ていた。「黙っていると卑劣が二重になるようだから言うが、越後守は下屋敷に側室を隠している」と去定は眩しそうな眼をして言った、「妾を持つくらいのことにふしぎはないが、奥方の悋気は尋常なものではない、おれは、つまりそこだ、おれは、ほのめかしたのだ、――いいから言え、保本、おれのやりかたが卑劣だということは自分でよく知っているのだ」
だが去定の顔はやはりいいきげんそうで、自責の色などは少しもなかった。
「おくにが放免されたのは当然であるし、十両は奥方の治療代だ、しかも、おれが卑劣だったことに変わりはない」と去定は言った、「これからもしおれがえらそうな顔をしたら、遠慮なしにこのことを言ってくれ、――これだけだ、柏屋へいってやるがいい」
--おわり--
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