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近侍に、重箱をとらせ、すぐその麦菓子の一つをとって味わいながら、「お篠とやら、そなたは、乳母の何人目の子じゃ」
「四人目の娘でございます」
「そうか、乳母は今、どうして暮らしているの」
「二番目の兄が、この宿場の在方で、手習い師匠をしておりまする。それへ身を寄せて、中風を養生しておりますが、もうよる年のこととて」
「……」
黙って、刑部はまた頷いた。そして、
「喜太夫」
と、近習番の三浦喜太夫へ頭を向け、何か囁くと、喜太夫が奥へ入って、手箱を取り寄せて来た。白紙の上に十枚の黄金がならべられ、それを包むと、縁先へ出て来て、喜太夫の手から刑部の心もちをお篠に伝えていた。
お篠は、そんな大金をもらって行って、母に叱られはしないかと、惑ったり断ったり、もじもじしていた。
--おわり--
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