青鬼の褌を洗う女 46/98 (坂口安吾)
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稽古の時は勝っても負けてもとても綺麗で、調子づくと五人十人突きとばして役相撲まで食ってしまう地力があるのに、本場所になると地力がでずに弱い相手に負けるのは、ちょっと不利になるとシマッタと思う、つまり理智派の弱点で、自分の欠点を知っているから、ちょっとの不利にも自ら過大にシマッタと思う気分の方が強くて、不利な体勢からがむしゃらに悪闘してあくまでネバリぬく執拗なところが足りないのだ。シマッタと思うとズルズル押されてたちまちたわいもなくやられてしまう。弱い相手に特にそうで、強い相手にはたいがい勝つ。つまり強い相手には始めから心構えや気組みが変わって慎重な注意と旺盛な闘志を一丸に立ち向かっているからなのである。
 私は勝負は残酷なものだと思った。もてる力量などはとてもたよりないもので、相撲の技術や体力や肉体の条件のほかに、そういう精神上の条件、性格気質などもやっぱり力量のうちなのだろうか。
--おわり--