青鬼の褌を洗う女 50/98 (坂口安吾)
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この忠言は彼をかなり発奮させ、二三度勝って気を良くしたが、その次の相撲で、例のシマッタ、そこで一気に不利になり、いつもならもうダメなところで私の忠告がきいたのか、思いもよらず立ち直って、とうとう五分の体勢まで押し返したから、すばらしい、エッちゃんとうとう悟りをひらいて、もう、こうなれば勝てると思ったのに阿修羅の怪力大勇猛心で立ち直りながら急にそこから気がぬけたようにズルズルと負けてしまった。そしてそれからまた元のモクアミ、自信を失っただけ、かえっていけないようなものだった。
「どうしてあそこで気がぬけたの。でも、あそこまで、立ち直ったのですもの、気持ちをくさらせて投げてしまわなければ、あなたは立ち直る実力があるのね。そこまでは証明ずみですから、今度はその先をガンバッてごらんなさい」
 と私がはげましてあげても、エッちゃんは浮かない顔で、いっぺん自信がくずれると、せっかくの大勇猛心や善戦が身にすぎた奇蹟のように思われるらしく、その後はますますネバリがなくなり、シマッタと思うと全然手ごたえなくヘタヘタだらしなく負けるようになった。
--おわり--