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私は眠るときでも電灯を消すことのできない生まれつきであった。戦争中でも豆電球をつけなければ眠られぬたちで、私は戦争で最も嫌いなのは暗闇であった。光が失われると、何も見えないからイヤだ。夜中に目がさめて電灯が消えていると、死んだのか、と慌てる始末であった。私はつまり並外れて死ぬことを怖がるたちなのだろう。五分ぐらいすぎて、私は次第に怖ろしくなった。外には何の気配もなかった。ノブ子さんの部屋へ行くと二人はまだ眠らずにいたが、事情を話してノブ子さんの布団の中でねむらせてもらうことにした。
「じゃあ関取はまだ戻らないんですね」
「ええ」
「自殺でもしたのかな」
「どうだか」
「うむ、どうでもいいさ」
田代さんはノブ子さんを相手に持参のウイスキーを飲みはじめたが、私は先に眠ってしまった。痺れるように、すぐ眠った。
--おわり--
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