青鬼の褌を洗う女 85/98 (坂口安吾)
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ふと目をさます。久須美が起きて私をぼんやり見つめている。私は無意識に腕を差しだしてニッコリ笑う。久須美は呆れたように、しかし目をいくらか輝かせて、静かに一つ、うなずく。
「何を考えているの?」
 彼は答える代わりに、私の額やまぶたのふちの汗をふいてくれたり、時には襟へ布団をかぶせてくれたり、ただ黙って私を見つめていたりした。
 私がノブ子さん田代さんに迎えられエッちゃんと別れて温泉から帰ってきたとき、私は汽車の中で発熱して、東京へ戻ると数日寝ついてしまった。見舞いにきた登美子さんはあなたのからだは魔法的ね、言い訳に苦しむ時には都合よく熱まででるように、九度八分ぐらいの熱まで調節できるんだからな、天性の妖婦なのね、などと私の枕元でズケズケいうのだが、私は言い訳に苦しむ気持ちなどは至って乏しくて、第一私は言い訳に苦しむよりも病気の方がもっと嫌いなのだもの、誰が調節して九度八分の熱をだすものですか。
--おわり--