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斯波という男は、――「あいつはまるで壁の花みたいな奴ですよ。そら、舞踏会で踊れないもんだから、壁にばかりくっついている奴がよくあるでしょう。そういう奴のことを英語で Wall Flower というんだそうだけれど……斯波の人生における立場なんか全くそれですね」――そんなことをいつか扁理が言っていたのを思い出しながら、それから、彼女はふと扁理のことを考えた。……彼女が客間に入って行くと、斯波は急に話すのをやめた。
が、すぐ、斯波は、例のこわれたギターのような声で、彼女に向かって言いだした。
「いま、扁理の悪口を言っていたところなんですよ。あいつはこの頃全く手がつけられなくなったんです。くだらない踊り子かなんかに引っかかっていて……」
「あら、そうですの」
絹子はそれを聞くと同時ににっこりと笑った。いかにも朗らかそうに。そして自分でも笑いながら、こんな風に笑ったのは実にひさしぶりであるような気がした。
--おわり--
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