野菊の墓 17/87 (伊藤佐千夫)
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先に僕に厭味を言われたから仕方なしにくるかとも思われたが、それは間違っていた。僕等二人の精神状態は二三日と言われぬほど著しき変化を遂げている。僕の変化は最も甚だしい。三日前には、お母さんが叱れば私が科を背負うから遊びにきてとまで無茶を言うた僕が、今日はとてもそんな訳のものでない。民子が少し長居をすると、もう気が咎めて心配でならなくなった。
「民さん、またおいでよ、余り長くおると人がつまらぬことを言うから」
 民子も心持ちは同じだけれど、僕にもう行けと言われると妙にすねだす。
「あれあなたは先日何と言いました。人が何と言ったってよいから遊びに来いと言いはしませんか。私はもう人に笑われてもかまいませんの」
 困った事になった。二人の関係が密接するほど、人目を恐れてくる。人目を恐れる様になっては、もはや罪悪を犯しつつあるかのごとく、心もおどおどするのであった。
--おわり--