ポラーノの広場 62/110 (宮沢賢治)
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「どうも全く知らないのです。まあ、あなたがたもご商売でしょうが、わたくしの声や顔付きをよくごらんください。これでおわかりにならんのですか。」わたくしは少ししゃくにさわって一息に言いました。
 すると二人はまた顔を見合わせました。ええもうなるようになれとわたくしはまた言いました。
「なぜわたくしより前にデストゥパーゴを呼び出してくださらんのです。誰が考えてもファゼーロのいないのはデストゥパーゴのしわざです。まさか殺しはしますまいが。」
「デストゥパーゴ氏はおらん。」
 わたくしはどきっとしました。ああファゼーロは本気かあるいはまちがって殺されたのかもしれない。警部が言いました。
「お前の申し立てはいろいろの点でテーモ氏の申し立てとちがっている。しかしわれわれはそれは当然だろうと考える。いま調書を読むから君の言ったところとちがった所がないかよくききたまえ。」一人は読みはじめました。
「ちがいありません。」私はファゼーロのことを考えながら上の空で答えました。
--おわり--