ポラーノの広場 93/110 (宮沢賢治)
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 わたくしどもはどんどん走りつづけました。
「そら、あすこに一つあかしがあるよ。」
 ファゼーロがちょっと立ちどまって右手の草の中を指さしました。そこの草穂のかげに小さな小さなつめくさの花が、青白くさびしそうにぽっと咲いていました。
 俄かに風が向こうからどうっと吹いて来て、いちめんの暗い草穂は波だち、私のきもののすきまからは、その冷たい風がからだ一杯に浸みてきました。
「ふう。秋になったねえ。」わたくしは大きく息をしました。
 ファゼーロがいつか上着は脱いでわきに持ちながら、
「途中のあかりはみんな消えたけれども……。」
 おしまい何と言ったか、風がざあっとやって来て声をもって行ってしまいました。
 そのとき、わたくしは二人の大きな鎌をもった百姓が、わたくしどもの前を横ぎるように通って行くのを見ました。その二人もこっちをちらっと見たようでしたが、それから何かはなし合って、とまって、わたくしどもの行くのを待っているようすです。
--おわり--