蟹工船 12/148 (小林多喜二)
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区切られた寝床にゴロゴロしている人間が、蛆虫のようにうごめいて見えた。――漁業監督を先頭に、船長、工場代表、雑夫長がハッチを下りて入って来た。船長は先のハネ上がっているひげを気にして、始終ハンカチで上唇を撫でつけた。通路には、林檎やバナナの皮、グジョグジョした高丈、草鞋、飯粒のこびりついている薄皮などが捨ててあった。流れの止まった泥溝だった。監督はじろりそれを見ながら、無遠慮に唾をはいた。――どれも飲んで来たらしく、顔を赤くしていた。
「ちょっと言っておく」監督が土方の棒頭のように頑丈な身体で、片足を寝床の仕切りの上にかけて、楊枝で口をモグモグさせながら、時々歯にはさまったものを、トットッと飛ばして、口を切った。
「分かってるものもあるだろうが、言うまでもなくこの蟹工船の事業は、ただ単にだ、一会社の儲け仕事と見るべきではなくて、国際上の一大問題なのだ。我々が――我々日本帝国人民が偉いか、露助が偉いか。一騎打ちの戦いなんだ。
--おわり--