日本画家東山魁夷の描いた「緑のハイデルベルク」はドイツの古都ハイデルベルクの古城と街並みを背景に、アーチ形をしたレンガ造りのアルテ橋を大きく描いた風景画です。この作品は全体が緑色の色調で統一されている点が最大の特徴です。
この絵に興味を持っていた私は、ドイツ旅行の際にハイデルベルクに立ち寄ることにしました。ドイツ最古の大学があるこの街は、歴史ある学生街としても有名です。
ハイデルベルク城へは、街からロープウェイでも登ることができますが、私は城壁に沿って石畳の坂を登りました。蔦の絡まる臙脂色の石が積まれた城壁は、所々煤けていて、この国の戦争の歴史を感じさせます。
城内の部屋の入口には中世のプファルツ選帝侯の紋章をかたどった彫刻などがあり、観光地となった今でも当時の栄華をしのばせます。
東山魁夷が描いた景色を見るためには城から街へ降りてアルテ橋を渡り、小高い丘の上へと続く哲学者の道を登ります。坂の途中で振り返ると古城と街並みが一望できるのです。
臙脂色の古城と、オレンジ色の屋根を持つ建物が並んだ美しい街並みですが、東山魁夷はあえて全体を緑の色調で描きました。ドイツ留学の経験のある作者は数十年ぶりにドイツを訪れた際、昔と変わらぬ風景に感動したと語っています。おそらく、彼はかつての情景を思い出しながら、あえて記憶の中にある色合いで絵を描いたのではないでしょうか。私には、昔と変わらぬ風景を眺めながら、彼が青春の色と呼ぶ緑を用いた理由が分かるような気がしました。
--おわり--