桜桃 (太宰治) 14分割 | 入力文の数= 14 |
明るく楽しい太宰治の家庭生活。だがそこには深い苦悩と悲しみがあった…。この作品名から太宰治の忌日(6月19日)は桜桃忌(おうとうき)と命名されました
- IA03864 (2023-12-07 評価=5.00)
子供より親が大事、と思いたい。しかし、私(太宰治)の家庭においては、親が弱く子供のご機嫌ばかりうかがっている。子供たちは皆幼く、長女7歳、長男4歳、次女1歳である - IA03865 (2023-12-07 評価=4.00)
三畳間での大混乱の夏の夕食で父は大汗をかく。母は子供の面倒をみるなど八面六臂の活躍をしながら、父の鼻の汗をからかう。しばし汗の話が話題になって、食事はつづく - IA03866 (2023-12-08 評価=5.00)
私は「心の中に悩みわずらう」事が多いので、家庭では楽しい雰囲気を創る事に努力している。お金、道徳、自殺の事も考えるが、小説を書くと人は面白さで読者を釣る、と私をさげすむ - IA03867 (2023-12-08 評価=4.00)
人間が人間に奉仕するのは悪い事だろうか。私は、糞真面目なことに堪えきれず、家庭では絶えず冗談を言い、夫婦は尊敬し合い、乱暴な口争いもしない。しかしこれは外見だけの話 - IA03868 (2023-12-09 評価=5.00)
母に「涙の谷」などと言われると、切りかえすことができず「(忙しければ)人を雇いなさい」と呟くだけ。父は家事には無能だし、来客、饗応で忙しい。仕事で一週間帰らない事もある - IA03869 (2023-12-09 評価=5.00)
父は執筆が遅く、酒は飲むし若い女友達もいる様子。だが、問題は4歳の長男だ。立つことも言葉もできず、オシッコも教えない。父母は悲惨だから長男について話すのを避けている - IA03870 (2023-12-10 評価=5.00)
発作的にこの子と川に飛び込みたくなる。「父親がおしの次男を斬殺する…」ような新聞記事が、私にヤケ酒を飲ませる。ああ、ただ単に発育がおくれているだけの事であってくれたら! - IA03871 (2023-12-10 評価=5.00)
父は小心な小説家である。公衆の面前でへどもどしながら書くのがつらいから、ヤケ酒を飲む。そういう人間は自己主張できないから、母と議論をしても勝ったためしがない - IA03872 (2023-12-11 評価=5.00)
いつか母の身勝手に気がつき、父だけが悪いわけでない事を確信するが、不快な憎しみを残さないよう私は沈黙し、ヤケ酒という事になる。(この小説は夫婦喧嘩の小説なのである) - IA03873 (2023-12-11 評価=5.00)
夫婦両方で相手の悪さの証拠固めをしているような危険が、二人を遠慮深くさせてはいたが、「涙の谷」と言われて私はひるんだ。おれだって、自分の家庭は大事だと思っている - IA03874 (2023-12-12 評価=3.00)
妻子を見殺しになどしないが、おれは精いっぱいなのだ。母は無口なほうだが、言葉につめたい自信を持っていて、切りかえされたら困るから私はほとんど何も言い出せない - IA03875 (2023-12-12 評価=5.00)
妻が末の子を連れて外出すると、私が二人の子の世話をする事になる。誰か雇ってくれたらいいのだ。来客も毎日十人程あるし、家の憂鬱から逃れるため仕事部屋に行くこともある - IA03876 (2023-12-13 評価=5.00)
女房が、今夜重態の妹の見舞いに出かけたいと言う。その間、私が子供を見なければならぬ。生きるとはたいへんな事だ。私は黙って引き出しから金を出し、酒を飲みに出かける - IA03877 (2023-12-13 評価=5.00)
「今日は夫婦喧嘩でね、今夜は泊まるぜ」と店に入る。そして桜桃(さくらんぼ)を食べては種を吐き「子供より親が大事」と呟くのだ。
「桜桃(おうとう)」太宰治作 昭和23年(1948)