漱石の遠縁の娘と結婚を約束した重吉。だが、彼は話を進めない…。彼に何かあったのか? 漱石が主人公の小説とも言えるミステリータッチの異色作
- IA01708 (2021-03-16 評価=4.00)
■五 九時近く縁側に出て煙草を吹かして待っていたら、下女の案内で重吉が赤い顔をして入ってきた。挨拶も抑揚も平生のままなので、彼の顔色については言う所もなく済ました - IA01709 (2021-03-16 評価=5.00)
三十分ばかり話をするうちに「あの事」の圏内で受け答えをするようになった。「――むろん貰いたいんですが」「いい加減な事を言って引っ張る位なら、今のうちに断る方が得策だ」 - IA01710 (2021-03-16 評価=4.50)
「断るなんてごめんだなあ。あの人が好きなんだから」「じゃ、早く片付けたら」「こんな田舎へ連れてくるんですか」自分は確かめてはいなかったが「承知するだろう」と答えた - IA01711 (2021-03-16 評価=4.50)
重吉は、暮れには月給が上がり、東京へ帰れるので小さい家でも構えて彼女を迎えたい、東京に帰れない場合は異存なければこちらに呼び寄せたい、と話した。自分は納得した - IA01712 (2021-03-17 評価=4.50)
「宜しく願いますじゃ、一向分からないじゃないか」と自分が言うと重吉は「全く本気なんです」と苦笑する。彼は私に二三日ゆっくりしては、と勧めたが、翌日出発する事にした - IA01713 (2021-03-17 評価=5.00)
■六 翌朝障子の前の鏡台の前に座って櫛を拭こうと、鏡台の引き出しを開けると、奥の方に手紙の端が見えた。取って中を見ると、細かい女の字で何か書いてある - IA01714 (2021-03-17 評価=5.00)
少し読むと、好奇心を満足することができなくなった。手紙はある女から男に宛てた艶書(ラブレター)で、奇抜な文句がひょいひょいと出てきて、字や仮名の誤りも目についた - IA01715 (2021-03-17 評価=5.00)
手紙は感情表現が露骨でありながら、型にはまっていて、誠がかえって出ていないようにも見えた。書き手が(恋の)くろうとである事が分かる手紙で、くすくす笑いながら読んだ - IA01716 (2021-03-18 評価=5.00)
女から思われているこの色男は何者だろうと思ったら、最後の宛名に重吉の姓名が書いてある。自分は「あの野郎」という心持ちになり、下女に重吉を車で迎えにやるよう命じた - IA01717 (2021-03-18 評価=4.50)
どう見ても普通なあの男が、女から手紙を貰ってすましていると考えると、その矛盾がすこぶる滑稽に見えた。自分はどういう感じで、彼に会見したものだろうと考えた - IA01718 (2021-03-18 評価=4.50)
■七 彼が駆け付けて来ると、おしゃれな和服を着ているのに気づいた。「今日は大分しゃれてるじゃないか」と言うと「昨夜もこの服装ですよ」との返事。間に妙な穴ができた - IA01719 (2021-03-18 評価=4.50)
自分が縁談を断ったらどうだと話すと、重吉は腑に落ちない顔付きをした――。重吉の反論は? 以降はぜひ入力して以降の談判とエンディングをお楽しみください