漱石の遠縁の娘と結婚を約束した重吉。だが、彼は話を進めない…。彼に何かあったのか? 漱石が主人公の小説とも言えるミステリータッチの異色作
- IA01689 (2021-03-11 評価=5.00)
うまくこしらえるなと感心したが、どちらかが踏襲した疑いもある。実は自分もつい近ごろこれと同様の体験をして、偶然の重複に詠嘆するような心持ちがある - IA01690 (2021-03-11 評価=5.00)
自分の経験もふとした場所で意外な手紙を発見し、それが導火線となって、思いがけなく実際上の効果を収めた。その手紙はフランスの作品同様、宿屋で発見されたものだ - IA01691 (2021-03-11 評価=4.50)
手紙を発見する一週間ほど前、K市に立つ前の晩、妻がついでだから、重吉さんの所に寄って、あの事をはっきり決めていらっしゃい、と言う。自分も同感であった - IA01692 (2021-03-12 評価=4.00)
重吉は身内のような青年で、一時自分の家に寝起きして学校へ通っていた。鷹揚で素直な性格で、大学へ入り下宿に移っても休みの日等に遊びに来て、自分も妻も彼を好いていた - IA01693 (2021-03-12 評価=4.50)
■二 重吉は学校を出るやいなや、田舎のH(市)の会社に就職した。彼の話では、たいした意味はないが、先輩の勧めで当分の約束で行くだけで、じき帰ってきますとのことだった - IA01694 (2021-03-12 評価=4.00)
重吉に「あの事」について尋ねると、万事貴方にお任せします、と平気な様子。冷静すぎて興味を持っていないようで不審に思えた。「あの事」とは彼の縁談の件であった - IA01695 (2021-03-12 評価=4.00)
女は妻の遠縁で、自分の家の出入りで重吉と知り合いになったが、二人の関係はそれだけのように見えた。年長者の監督のもとに立つ少女と修業中の青年との関係に過ぎなかった - IA01696 (2021-03-13 評価=4.50)
だから重吉が、彼女を妻に貰いたい、話してほしいと言った時には驚いたのである。彼の意志の重みを快く感じ、妻から話をした。すると道楽をしない人ならという返事だった - IA01697 (2021-03-13 評価=4.50)
その理由も伴っていた。女には二三年前に資産家に嫁に行った姉がいる。姉娘の父母は結婚以来、夫の不身持ちから、苦々しい思いを陰でなめさせられたのである - IA01698 (2021-03-13 評価=4.50)
■三 実をいうと、父母はそれを仕事に必要なものと承知していたが、やがて眉をひそめなければならなくなった。公に言いにくい夫の病気が妻に感染し健康を損ねたからである - IA01699 (2021-03-13 評価=4.50)
そのため、彼らは道楽をしない保険付きの堅い人に、次女を貰ってもらおうと相談がまとまったのである。妻は彼なら間違いはないと思うが、どうでしょうと尋ねた - IA01700 (2021-03-14 評価=4.00)
いい加減に返事をするのもいかがなものであるが、といって、重吉が遊ぶとは考えられない。私は妻に「道楽の方は受け合いますと言っといてよ」と言った - IA01701 (2021-03-14 評価=4.50)
妻が先方に行って道楽をする男じゃない、と受け合い、話は進展した。だが重吉のH行き以後、話は停まった。妻が手紙を送っても万事宜しく、との例の通りの返事を寄こした - IA01702 (2021-03-14 評価=4.00)
その前も、私はまだ道楽を始めませんから大丈夫という葉書が来て、妻は怒ったような語気をもらしていた。今度の旅行を幸い、帰りにHに寄って、はっきり片付けることにした - IA01703 (2021-03-14 評価=4.00)
■四 目的地で仕事が一段落した後、また汽車に揺られてHへ着いた。人力車を雇って重吉のいる宿屋の玄関へ乗り付けると、番頭がついこの間お引き移りになりました、と言う - IA01704 (2021-03-15 評価=4.00)
彼の引っ越し先は自分が泊まれそうな所ではないらしく、ここに泊まりたいと言うと、番頭は一杯だと丁寧に断る。あらかじめ重吉に通知して到着時間も知らせておくべきだった - IA01705 (2021-03-15 評価=4.50)
重吉の手紙ではこの旅館が一番よいとの話だったので、なんとか部屋を都合してほしいと依頼すると、佐野さん(重吉)のいた座敷なら、という事で、その部屋へ案内して貰った - IA01706 (2021-03-15 評価=4.00)
縁側から庭下駄をはいて行く部屋は、一戸建てのような離れで、湿っぽく陰気で中も古びていた。こんな所にはいっていたのか、と思いつつ重吉にすぐ来い、という手紙を書いた - IA01707 (2021-03-15 評価=4.00)
湯の後、重吉を待っていたが、待ちきれずに一人膳に向かい、ビールも飲んだ。給仕の女は重吉を大人しいよい方だと言った。道楽をするだろうと尋ねると、いいえと答えた