下頭橋由来 (吉川英治) 18分割 | 入力文の数= 18 |
「下頭橋由来(げとうばしゆらい)」は「宮本武蔵」で根強い人気を持つ吉川英治の短編時代劇。伝承に取材した人情ストーリーが力強い文章でつづられます
- IA02521 (2022-03-28 評価=2.50)
■飯びつ■ 十八になるお次が書道を習いはじめて、もう二年。その間、ずっと寛永通宝を一枚、帯のはさんでいる。石神井川の仮橋の乞食、岩公にやるためだ - IA02522 (2022-03-28 評価=4.00)
岩公はお辞儀をするが、遠慮して声はかけない。が、この日、お次は誤って銀のかんざしを仮橋の下の泥水に落とした。がっかりしていると、岩公が泥土に入って行った - IA02523 (2022-03-28 評価=4.00)
岩公は泥だらけになって、日が暮れるまでかんざしを探している。稽古から帰って来たお次は、はじめて岩公に声をかけた。岩公は大きなくしゃみをしていた - IA02524 (2022-03-28 評価=4.00)
翌日もお次が通ると、岩公はまだ探していて驚いた。岩公は「ねえ筈はねえ」と答えたものの、三日目も四日目も探している岩公に、お次は少々嫌な気がさしてきた - IA02525 (2022-03-28 評価=3.00)
春になり、豪雨で流された仮橋は近くに新たに造られていたが、その日ふいに岩公が駈け上がってきて、「あったよ」とお次にかんざしを渡した。お次は眼が熱くなった - IA02526 (2022-03-28 評価=4.00)
■漬物倉■ 岩公は流れ来て12年程、最近は姿が見えないと心配されるようになった。泥棒や火事が減り、川へ落ちた子を救っていた。年は三十四、五、小柄だが身体は満足だった - IA02527 (2022-03-28 評価=4.00)
ある日、仮橋の上に旅支度の武士がじっと下を見ていたが、いきなり羽織を脱ぎ捨てると「おのれっ、佐太郎だなっ」と怒鳴った - IA02528 (2022-03-28 評価=4.00)
武士は河原へ飛び降りたが、岩公は上に逃げた。武士は街道に戻り、茶屋の裏に回ると「向こうだ」とどんどん駈け出した - IA02529 (2022-03-28 評価=4.00)
旅の武士は「弟の敵だ」と怒鳴りながら、岩公が逃げ込んだ練馬の旧家らしい家の庭に、抜き身の刀を下げて駈け込んだ。縁側で縫い物を広げていてお次の家族が悲鳴をあげた - IA02530 (2022-03-28 評価=4.00)
乱入武士は出てきた若い者に取り押さえられたが「拙者は小田原の岡本半助。逃げ込んだ男は隣家の若党佐太郎。妹をたぶらかし弟を殺し、妹も自害に追い込んだ奴だ」と話した - IA02531 (2022-03-28 評価=4.00)
武士は「お情けじゃ、追い出して下され」と言う。若いのが「あの乞食は悪人じゃねえ」と助命をかけあっても「きゃつが這いだしてくるまでここで頑張る」と話をきかない - IA02532 (2022-03-28 評価=3.00)
若い者たちが、竹ざおで追いだそうとする半助を妨害すると「根くらべだ」と、何日でも待つぞという風に蔵のまわりを歩き出した - IA02533 (2022-03-28 評価=3.00)
■大根月夜■ 半助の足音は夜半でも外に聞こえた。お次の父親も、嫁入りが近いのに沈んでいるお次を心配するほどだった。 - IA02534 (2022-03-28 評価=4.00)
父が「岩公もふびんだが、悪因悪果。三日三晩待つお武家の根気も見あげたもの。若い者に岩公を渡すよう説くつもりだ」と言うと、お次は「嫌、後生だから助けてやって」と泣いた