文字禍 (中島敦) 18分割 | 入力文の数= 18 |
文字には霊があるのか? 難問に取り組む老博士の物語「文字禍(もじか)」。入力難易度は高いが、作者の深い歴史への造詣とユニークな発想が光る作品
- IA02712 (2022-06-08 評価=4.00)
文字の霊というものは、存在するのか? 古代アッシリア、ニネヴェの宮廷では、図書館の闇の中でひそひそ声がする、という噂があった - IA02713 (2022-06-09 評価=4.33)
捕虜達は舌を抜かれたので、その死霊ではない。書物や文字の話し声という占いが出て、大王は老博士ナブ・アヘ・エリバに研究を命じ、博士は図書館で研鑽をはじめた - IA02714 (2022-06-09 評価=4.50)
メソポタミアの書は粘土板に文字を彫りつけたもので、瓦のような書には古代神ナブウの事しか記されていない。博士は文字に霊があるか確かめるため、一つの文字を凝視した - IA02715 (2022-06-09 評価=4.50)
老博士は、文字を凝視すると、単なる線の集まりとしか見えなくなる事実を発見した。単なる複数の線が意味を持つのは、文字には霊があり、統率しているからだと考えた - IA02716 (2022-06-10 評価=4.50)
多くの文字の霊の性質が判ってきた。文字の精霊は多く、子を産みふえる。人が文字を覚えると、文字の精は眼を食い荒らすため、眼を使う行動に制約を与える - IA02717 (2022-06-10 評価=4.50)
咳やくしゃみなどの症状、頭髪、手足、脚、顎に影響が出た者もある。職人や戦士にも影響する。博士は「文字の害は人間の頭脳を犯し、精神を麻痺させる」と備忘録に記入した - IA02718 (2022-06-10 評価=4.00)
字は実物の影ではないのか。獅子という字を憶えた猟師は文字のベールを被った獅子の影を狙うのではないか。人々は物憶えが悪くなり、書きとめないと憶える事もできなくなる - IA02719 (2022-06-11 評価=4.50)
着物は人間の皮膚を、乗り物は脚を弱くした。文字の普及は人々の頭を働かなくした。知り合いの書物狂の老人も、博学だが天気に興味がなく、隣人を慰める言葉を知らない - IA02720 (2022-06-11 評価=4.50)
この老人は古代の王の后の好む衣装を知っていても、自分の服を知らない。文字の精は彼を食い荒らして近眼にし、せむしにした。博士は彼を文字の精霊の犠牲者の第一に数えた - IA02721 (2022-06-11 評価=4.50)
この老人は幸福そうだったが、博士はそれも文字の霊の魔力と見なした。また、博士は侍医が大王を装い、死神の眼をあざむいて病を転ずる手法への批判を、快く思わなかった - IA02722 (2022-06-12 評価=4.50)
博士は、そのようなあさはかな合理主義を、文字の精霊による一種の病と考えていた。ある日、若い歴史家が博士に対し「歴史とは何ぞや」というテーマで論争を挑んだ - IA02723 (2022-06-12 評価=4.00)
大王が命じた記録は歴史になるのか? 歴史とは、昔あった事柄をいうのか? それとも粘土板の文字をいうのか? 老博士は粘土板に誌された、昔あった事柄を歴史というと答えた - IA02724 (2022-06-12 評価=4.50)
歴史家が書き洩らしについて問うと、博士はなかった事になる、歴史とは粘土板のことだと答えた。文字の精が事柄を誌すと、不滅の生命を得るが、そうでないものは存在を失う - IA02725 (2022-06-13 評価=4.50)
木星が動きで神々が怒り、月食でわざわいが起こるのも、古書に書かれているからで、文字の精霊の力は恐ろしい。私たちは文字の精霊に使われる下僕だ。だが精霊には害もある - IA02726 (2022-06-13 評価=4.50)
若い歴史家が帰った後、博士は彼に霊の威力を讃美するような事を言ったのではないか、と舌打ちした。実際、文字の霊は博士に恐ろしい病をもたらしていたのである - IA02727 (2022-06-13 評価=4.50)
それは、意味と音を持っていたはずの字が、分解されて直線の集まりになる現象だった。家や人間の身体も無意味な奇妙な形の部分部分に分かれ、理解できなくなるのだ - IA02728 (2022-06-14 評価=5.00)
人間の日常の営み、習慣が意味を失ってしまった。博士は気が違いそうになり、早々と研究報告をまとめ、見えざる文字の精霊のため蝕まれている、と付け加えて大王に献じた - IA02729 (2022-06-14 評価=4.50)
だが、文字の霊は博士を放っておかなかった。彼は大王の機嫌を損なって謹慎となり、邪悪な文字の霊の復讐を受けた。さらに博士には不幸が襲った…。(昭和17年2月)