北陸から帰る汽車で出会った、押し絵を窓に立て掛ける男。年齢不明の彼は不可思議な物語を私に語り始めた。江戸川乱歩エッセンス満載の傑作ホラー
- IA02880 (2022-08-23 評価=5.00)
兄の姿は小さく闇の中に見えていましたが、兄はみるみる小さく30センチ位になると、闇の中へ溶け込んでしまいました。私は怖くなって「兄さん」と呼んで走り出しました - IA02881 (2022-08-23 評価=5.00)
しかし、いくら探しても兄は見つからず、それっきりこの世から姿を消してしまったのですよ……。それ以来、私はいっそう遠眼鏡という魔性の器械を恐れる様になりました - IA02882 (2022-08-23 評価=5.00)
私は、兄が遠眼鏡の力で、押し絵の世界に忍び込んだのではあるまいか、と思いました。そこで覗き屋に頼んで見せて貰うと、兄は押し絵になってお七を抱きしめていたのです - IA02883 (2022-08-24 評価=5.00)
私は覗き屋にその押し絵を譲って貰うことを約束しました。しかし父母はこの話を信じません」と老人は笑った。「でも兄が押し絵になった証拠に、兄はこの世から消えたのです」 - IA02884 (2022-08-24 評価=5.00)
父母は家出したのなぞと、当て推量していましたが、私はお金をねだって覗き絵を手に入れ、箱根から鎌倉の方へ新婚旅行させてやりました。兄は仕合わせでございましたろう - IA02885 (2022-08-24 評価=5.00)
その後、父と富山の近くに引き込みましたが、三十年ぶりに兄に東京を見せてやりたいと旅に出ました。悲しいことに、娘は年をとりませんが、兄は白髪になってしまいました - IA02886 (2022-08-25 評価=5.00)
兄は悲しげな顔をして、私は気の毒で仕様がないのです」と老人は暗然と押し絵を見やっていた。そして「とんだ長話をしました」と言いながら、押し絵を風呂敷に包むのであった - IA02887 (2022-08-25 評価=5.00)
汽車がどことも知れぬ山間の小さい駅に停車すると、老人は私に挨拶し、額の包みを抱えて闇の中へ消えて行った