心中 (森鴎外) 23分割 | 入力文の数= 23 << < 1 2 > >> |
料理店の女中のお金(きん)が語る深夜の出来事。現代と異なる、明治時代の風俗や考え方がよくわかる短編作品です
文字数
375
IA03103 (2022-11-22)
この話はお金(きん)がどの客にも一度はする話だった。あの頃のお金は、確かに三十を越していた
文字数
335
IA03104 (2022-11-23)
お金は妙な癖のある奴で、お客の前へ出ると、落ち着かない座りようをする。客との親しさの度合いによって、気を引く素振りをする
文字数
375
IA03105 (2022-11-23)
僕はお金の話をそのまま書こうと思う。文章が評価され、お金をもらうことになれば、お金にそっくりお祝儀にやれば好いだろう
文字数
351
IA03106 (2022-11-24)
■ 川升(かわます)という料理店には、十四五人の女中がいて、みな広い二階の和室に寝ていた
文字数
325
IA03107 (2022-11-24)
暮れの押し詰まった頃、夜中にお金はふいと目を醒ました。その晩は雪が降っていて、雪の積もった庭木は倒れそうなほどだった
文字数
414
IA03108 (2022-11-25)
暫くしてお金の右隣に寝ていたお松という、お金より少し若い女中が目を醒ました
文字数
387
IA03109 (2022-11-25)
お松がお手洗いに行くと言って立ち上がると、一人の女中が「お松さん、一緒に行く」と言った
文字数
356
IA03110 (2022-11-26)
声の主はお花という十六七の娘。お花はお松にせかされて起きると、お松に付いて梯子を降りた
文字数
424
IA03111 (2022-11-26)
廊下を通り、便所まで行く間に茶室まがいの四畳半の部屋がある。夜、この部屋から女の泣き声が聞こえると言って、怖がる者がいた
文字数
328
IA03112 (2022-11-27)
*** その後、お金はお花の隣のお蝶の床も空いているのに気付いた。お蝶は婿取りを嫌って逃げて来た下野の機屋の娘だが、親類が説得に来ても帰らない強情さがあった
文字数
319
IA03113 (2022-11-27)
その後、十八九の佐野という男が、お蝶を訪ねて来た。彼は坊さんになるため寺に預けられていたが、お蝶が彼に一目惚れし近付いた事が、婿取りを嫌がった理由だった
文字数
360
IA03114 (2022-11-28)
ところが住職は佐野を僧侶になる柄の人ではない、と寺を追い出してしまった。そこで彼は東京に出て私立学校に入り、お蝶は後を慕って出て来たのであった
文字数
348
IA03115 (2022-11-28)
佐野もだんだんお蝶に同情して来て、相談に乗る立場になったらしい。こういう事情はあったものの、お蝶は何事にもよく気が付き、客にも評判がよい娘だった
文字数
352
IA03116 (2022-11-29)
いじめられても、すぐ機嫌を直して働き、怨むこともない。モンナ・リザの画を思い出す、口の端のちょいとした皺も可愛く、お上さんにも気に入られていた
文字数
408
IA03117 (2022-11-29)
お蝶は外泊どころか昼間も休んだことがなく、佐野が来ても話をするだけだった。その為、お金は今夜遅くに佐野が来た後、お蝶が床に戻らないのが気になっていた
文字数
421
IA03118 (2022-11-30)
*** 二人はこわごわ歩きながら、一階に降りた。一階は、絶えず風で木立や開き戸があおられて鳴る音がする
文字数
408
IA03119 (2022-11-30)
「あの、ひゅうひゅうという音はなんでしょう」とお花が言った。どこかの隙間から吹き込む風の音でもなさそうだ。二人は耳をそばだてたが、わからなかった
文字数
418
IA03120 (2022-12-01)
怖がるお花と、強がるお松の二人が歩くごとに、ひゅうひゅうという音が心持ち近くなるようである
文字数
413
IA03121 (2022-12-01)
ひゅうひゅうという音がこれまでになく近く聞こえたので、二人は急いで用を足した
文字数
355
IA03122 (2022-12-02)
二人は怖い思いをしながら戻りかけた。すると、矢張り四畳半の部屋の方が音が近く聞こえる