峠には人を狂わす桜の森があった。ある日、山に住む山賊は、旅人を殺し美しい女を手に入れた…。男と残酷な女が織りなす妖しい幻想世界を描く名作
- IA01746 (2021-03-25 評価=4.00)
しかし、桜の森が二三日後に満開になることが気がかりでした。花ざかりのまんなかで身動きせず座ってみせる、と思いましたが、女はそれを不審に思いました - IA01747 (2021-03-25 評価=4.00)
女は桜を見たい理由を尋ねましたが、男は答えられません。女が自分も花の下へ連れて行ってほしいと頼むと、男は一人でなくちゃだめだ、と断り、女は苦笑しました - IA01748 (2021-03-25 評価=4.00)
三日目、男は満開の桜の森に出かけました。が、四方の風は吹き通り、頭が混乱し、彼は泣き、祈り、もがき、逃げ去ろうとしました。花の下をぬけだして、我に返りました - IA01749 (2021-03-25 評価=5.00)
★ 男と女とビッコの女は都に住みはじめました。男は女の希望で夜ごとに邸宅に押し入り、財物と住人の首を持ち帰りました。女は家に多くの首を飾り、毎日首遊びをしました - IA01750 (2021-03-26 評価=5.00)
首遊びとは、姫君の首と大納言の首に愛憎の物語を演じさせること。首は毛が抜け肉がくさり、鼻もつぶれ目の玉もくりぬけていましたが、女は大喜びで笑いさざめきました - IA01751 (2021-03-26 評価=5.00)
女は薄い陶器が鳴るような爽やかな声で笑いました。女は坊主の首には悪い役を演じさせましたが、腐って使えなくなりました。新たに得た坊主の首は若い稚児のような首でした - IA01752 (2021-03-26 評価=4.00)
女はよろこびましたが、すぐ飽きて憎たらしい首を希望しました。男が五つも首をブラさげて来ると、五十くらいの大坊主の首が気に入って遊んでいました。が、じき飽きました - IA01753 (2021-03-26 評価=5.00)
美しい娘の首がありました。女は娘の首にお化粧して可愛がり、念入りにお化粧した若い貴公子の首と、燃え狂うような恋の遊びにふけさせました。 - IA01754 (2021-03-27 評価=4.00)
けれども娘の首が汚くなってくると、女は首に穴をあけたり、さらに汚して首を投げ出しました。男は昼間刀も携帯できず、市には外出着を着なければならない都を嫌いました - IA01755 (2021-03-27 評価=4.00)
市に出ると商人や田舎女や子供、売春婦まで、彼を笑いなぶりました。男は何よりも退屈に苦しみました。彼はひがんだり、うらんだりすねたり考えたりすることが嫌いでした - IA01756 (2021-03-27 評価=3.00)
彼はビッコの女に、都は退屈だから山へ帰りたくないかと尋ねました。彼女は近所の人達とお喋りできて退屈しない、と答え、彼に喋らないから退屈するのだと言いました - IA01757 (2021-03-27 評価=4.00)
都にも山がありますが、そこには人の往来があり、都の汚い眺めが見えます。彼は人を殺すことにも退屈していて、人を殺していることも昼はほとんど忘れていました。 - IA01758 (2021-03-30 評価=5.00)
彼は女の欲望にキリがないことにも退屈していました。女の欲望は、いわば休みなく直線に飛びつづける疲れない鳥。彼はただの鳥でした。動作は敏捷でも、尻が重いのです - IA01759 (2021-03-30 評価=4.00)
男は都の空を、無限にまっすぐ飛びつづける鳥を想像すると、考えの苦しさに頭が割れそうになりました。家に帰ると、女は、今度は美しい白拍子の首が欲しいと言い出しました - IA01760 (2021-03-30 評価=4.00)
男が「厭だよ」と答えると、女はびっくりして笑いながら「臆病風に吹かれたの？」と尋ねます。男は「キリがないから厭になったのさ」と答えました - IA01761 (2021-03-30 評価=3.00)
女が再度、白拍子の首がほしいと言うと、彼は何も答えず外に出ました。彼は山の上に登り、女を殺すことを考えました。しかしそうすると、彼の心臓には孔があいてしまいます - IA01762 (2021-03-31 評価=5.00)
女を殺すと自分を殺してしまうようで、想念は捉えがたく、想念が引くと苦痛のみが残りました。男は数日山中をさまよい、ある朝目ざめると、満開の桜の花の下にねていました - IA01763 (2021-03-31 評価=5.00)
彼は鈴鹿の山の桜の森を思い出し、山へ帰ろう、と思いました。男が家へ帰ると、女は嬉しげで、無理を言ったことを謝り、淋しかったと言いました。かつてないことでした - IA01764 (2021-03-31 評価=4.00)
男が山へ帰ることにした、と言うと女は最初、薄情者、嫌いになったのか、となじりましたが、すぐに、留守の間お前のことばかり考えていた、と目に涙のしずくを宿しました - IA01765 (2021-03-31 評価=5.00)
「お前が山に帰るなら、私も山へ帰るよ。私は一日でもお前と離れて生きていられない」という女の言葉は男の胸にしみました。女は新しい首をもたらす彼を放すことはできません
