舞踏会 (芥川龍之介) 19分割 | 入力文の数= 19 |
明治19年、鹿鳴館で欧米の人々を招いて華やかな舞踏会が開催された。舞踏会に17歳で参加した明子と、仏蘭西人将校との青春の淡い思い出を描く名作
- IA01907 (2021-05-21 評価=3.36)
■1 明治19年11月3日、17歳の明子は父親と一緒に舞踏会が催される鹿鳴館の階段を上がった。舞踏室からは陽気な管弦楽の音が溢れて来る - IA01908 (2021-05-22 評価=4.00)
明子は仏蘭西語と舞踏の教育を受けてはいたが、正式の舞踏会は始めてで、落ち着かなかない。階段の中程で、支那(中国)の大官に追いついた - IA01909 (2021-05-23 評価=3.60)
明子は、開化の日本の少女の美をそなえており、支那の大官は、明子に呆れたような視線を投げた。階段を下りて来た若い燕尾服の日本人も、呆れたような一瞥を明子へ浴びせた - IA01910 (2021-05-24 評価=3.50)
舞踏室の入り口で客を迎えていた主人役の伯爵は明子を見て、一瞬間驚嘆の色を示したが、すぐ明子の父親が嬉しそうに伯爵と夫人に娘を紹介した - IA01911 (2021-05-25 評価=3.50)
舞踏室の中は菊の花が咲き乱れていて、相手を待つ婦人たちがいた。明子は父親と分かれ、同年輩のきらびやかな婦人たちの一団といっしょになった - IA01912 (2021-05-26 評価=3.33)
見知らない仏蘭西の海軍将校が明子に静かに歩み寄った。彼は日本風の会釈をし、訛りの強い日本語で「いっしょに踊っては下さいませんか」と言った - IA01913 (2021-05-27 評価=3.33)
明子は海軍将校とワルツを踊った。彼は目鼻立ちの鮮やかな濃い口髭のある男で、背が高かった。場なれしている彼は巧みに彼女をあしらって群集の中を舞い歩いた - IA01914 (2021-05-28 評価=4.00)
人波はシャンパンのように湧き立ち、管絃楽の旋律で煽られていた。明子は忙しい中にも友達と愉快そうに頷きを送り合っていたが、すぐに違った踊り手が次々と現れた - IA01915 (2021-05-29 評価=4.00)
その間も、フランスの海軍将校は彼女の舞踏ぶりに興味を持ち、彼女の一挙一動に注意していた。明子にはそれがおかしくも誇らしくもあり、身軽く踊り靴を床の上にすべらせた - IA01916 (2021-05-30 評価=4.00)
相手の将校は彼女の疲れに気づき、もっと踊るかどうかいたわるように尋ねた。明子が「ノン・メルシイ」と答えたので、将校は彼女を壁側の椅子に鮮やかに掛けさせた - IA01917 (2021-05-31 評価=3.50)
その後、明子は仏蘭西の海軍将校と階下の部屋へ下りて行った。部屋には美しい食器類に蔽われた食卓に食べ物が並べられていた - IA01919 (2021-06-02 評価=4.00)
明子が西洋の女性の美しさをほめると、海軍将校も明子を「日本の女性も美しいです。殊にあなたは―、巴里の舞踏会へも出られます。ワツトオの画の御姫様のようです」と讃えた - IA01920 (2021-06-03 評価=3.50)
明子が、私も巴里の舞踏会へ行ってみたいと応じると、海軍将校は「巴里の舞踏会も全く同じ事です」と返した。一時間後、二人は舞踏室の外にあるバルコニーにたたずんでいた - IA01921 (2021-06-04 評価=4.00)
バルコニーは苔や落ち葉の匂いが庭園から上がっていた。舞踏室では皇室の菊の紋章を染め抜いた幕の下で、人々が休みなく動揺を続けていた - IA01922 (2021-06-05 評価=4.00)
気がついてみると、海軍将校は、明子に腕を貸したまま、星月夜へ黙然と眼を注いでいた。明子は「お国の事を思っていらっしゃるのでしょう」と尋ねてみた - IA01923 (2021-06-05 評価=4.00)
彼は子供のように首を振り「当てて御覧なさい」と尋ねた。夜空には花火が闇を弾いていて「私は花火の事を考えていたのです。我々の生のような花火の事を」と言った - IA01924 (2021-06-05 評価=4.50)
■2 大正七年の秋、H老夫人となった明子は面識のある青年小説家と偶然汽車でいっしょになり、鹿鳴館の舞踏会の思い出を話して聞かせた。青年は多大の興味を感じた - IA01925 (2021-06-05 評価=5.00)
H老夫人が海軍将校の名(本名)を告げると、なんと日本を題材にした小説で有名な小説家ピエール・ロティだった。青年は興奮したが、夫人はロティを知らなかった