耳を切り取られた耳男(みみお)が無邪気で残酷な長者の娘夜長姫(よながひめ)の為に彫る仏像とは…。坂口安吾が独特の語り口でつづる傑作説話物語
- IA02500 (2022-03-16 評価=4.00)
オレは「バケモノには力がなく、今のミロクには何かがある」と確信しておりヒメの言葉の意味がわからなかった。だがヒメの笑顔がその確信をくずしそうで、切ない思いを感じた - IA02501 (2022-03-16 評価=3.00)
★ 五十日もたたぬうち、別の疫病が流行り始めた。元気そうに見える百姓でも日ざかりの畑でことぎれることが少なくなかった。バケモノのホコラの前で死んでいた者もいた - IA02502 (2022-03-17 評価=3.00)
小屋へヒメが来て「バケモノを拝みに来た婆さんが死ぬのを見たのよ」と嬉しそうに言った。そして、オレの返事にはとりあわず「裏の山から袋いっぱい蛇をとっておいで」と言った - IA02503 (2022-03-17 評価=4.00)
オレは裏の山で蛇をとった。以前はヒメの笑顔に押されてひるむ心をかきたてるためだった。そんな時バケモノは腑抜けに見え、山の蛇の生き血を飲みほしても足りない気がした - IA02504 (2022-03-19 評価=3.00)
今のオレはヒメの笑顔に押されても、オレのノミが素直にそれを表すことに集中している。以前に比べると、今のオレは素直な心に立ち、すべてに於いて立ちまさっていると思う - IA02505 (2022-03-19 評価=3.00)
蛇をつめた大きな袋をもって、ヒメと楼へ行った。ヒメはバケモノのホコラを示して「すがりついて死んでいる老婆は、少し拝むとキリキリ舞いして動かなくなったわ」と言った - IA02506 (2022-03-21 評価=4.00)
疫病も、バケモノが魔よけの神様にまつられていることも、オレが名人ともてはやされていることも、オレには別天地の出来事だった。バケモノを信じて死ぬ人には罪な話だ - IA02507 (2022-03-21 評価=4.00)
オレがしぼった蛇の血をおチョコにうけて飲み、殺した蛇は天井に吊るしたとヒメに言うと「生き血は私が飲むから、同じようにして」と指示した。オレは命令に従うしかなかった - IA02508 (2022-03-21 評価=4.00)
オレが蛇の生き血を渡すとヒメは一息にのみほした。オレは怖ろしさに手が狂いがちだった。ヒメは何をしたいのだろう。蛇の生き血を飲みほすヒメは無邪気だが怖ろしかった - IA02509 (2022-03-22 評価=4.00)
ヒメは「もう一度山へ行って。それから明日は朝早くから出かけてよ。天井いっぱい吊るすまで毎日。ほら、お婆さんの死体を片付けに人が集まってる」と言った - IA02510 (2022-03-22 評価=4.00)
「村の人々がキリキリ舞いをして死んで欲しいわ」と言うヒメに、オレは動けなくなった。蛇の生き血を飲み、死体を吊るして、村の人々が死ぬことを祈っているのだ - IA02511 (2022-03-23 評価=4.00)
★ ヒメの期待に添いたい一念がオレをかりたてた。オレは朝早く山へ分けこみ、必死で蛇をとり、高楼に戻って蛇を吊るした。ヒメの顔が輝くのを見て、オレは再度山へ急いだ - IA02512 (2022-03-23 評価=4.00)
ヒメのしていることは、人間の思いつくこととは思えなかった。高楼の天井いっぱいに蛇の死体がぶらさがったとき、どうなるのだろうと考えると、オレは苦しかった - IA02513 (2022-03-24 評価=5.00)
ヒメは青空と同じくらい大きく、この先、何を思いつき、何を行うか、とうてい並の人間どもには思量できないような気がした。オレは二度目の袋を背負って戻った - IA02514 (2022-03-24 評価=4.00)
ヒメは、クワを落として倒れた農夫や、這ってうごめいている野良の人を指さして喜んでいた。オレは怖れとも悲しみともつかないものがこみあげた - IA02515 (2022-03-25 評価=3.00)
ヒメがキリキリ舞いをし始めた農夫を見つけ、オレに声をかけた。倒れた農夫は汗まみれだった。オレは、ヒメが村の人間をみな殺しにしてしまうような気がした - IA02516 (2022-03-25 評価=4.00)
村人はいなくなり、高楼の天井で無数の蛇の死体が風にゆれている…。人間世界のこととは思えない。蛇を斬り落とすか、逃げ出すか。オレはいずれを選ぶか考えた