留年して卒業が伸びた大学生佐野次郎。癖のある友人馬場らと雑誌「海賊」刊行を計画する。昭和初期の学生達の情熱と葛藤を描く太宰治初期の異色作
- IA03226 (2023-02-01 評価=4.00)
■二 ナポリを見てから死ね! 私達はプランを語り合った。フランス等にはむかしの若き芸術家たちが世界に呼びかけた機関雑誌が数多くある。「海賊」を季刊誌にすることにした - IA03227 (2023-02-01 評価=5.00)
天才画家の挿画つきの上質の紙を使った大判の本。ユニフォームを新調し仲間の条件も決める。異国へ我らの芸術を我らの手で知らせたい。その日、馬場は甘酒屋で待っていた - IA03228 (2023-02-02 評価=4.00)
馬場の足もとに菊ちゃんがうずくまっていたが、私の顔を見ると、表情をかえて奥へ駈けこんでしまった。馬場がうす笑いをした - IA03229 (2023-02-02 評価=5.00)
馬場は「菊ちゃんに、じっと見てると僕の不精ひげが伸びるところが肉眼でも判るよ、と教えたら僕の顔を見つめていたんだ。無知なのか利発なのか、小説にでも書くかな」と言う - IA03230 (2023-02-03 評価=4.00)
私が、面白そうだと言うと、馬場はいつもの不機嫌そうな表情を取り戻し、怪談の話を始めた。「君は怪談を好むだろう、原稿用紙に一字も書けないという怪談はどうだ」 - IA03231 (2023-02-03 評価=4.00)
「その人は世界中の小説が退屈になるようなおそろしい小説を企てるが、その人はみるみる痩せて、発狂するか自殺するか言葉を発することができなくなってしまうのだ」と馬場 - IA03232 (2023-02-04 評価=4.00)
そこに学生服を着た若い男がやってきた。馬場は私に、彼がれいの絵描きの佐竹六郎だと紹介した。佐竹は顔がきめ細かく鼻筋も通っているが、背が低く四肢の貧しい男だった - IA03233 (2023-02-04 評価=4.00)
「あんたのことを馬場から聞きましたよ。ひどいめに遭いましたねえ」と佐竹が言い、私はむっとした。馬場も舌打ちし「からかうな。語尾にねえ、とか、よ、をつけるな」と言った - IA03234 (2023-02-06 評価=4.00)
馬場は「おめえとはここで口論したくない」と言った。何か仔細があるようだった。佐竹は「新響のオーケストラを聞きに行くから」と言って帰った - IA03235 (2023-02-06 評価=3.00)
馬場は佐竹について、つまらん奴を仲間に入れた、血のつながりがない親戚だが、彼の自尊心の高さにはぞっとする、とため息をもらした。が、画だけは正当に認めると言った - IA03236 (2023-02-07 評価=3.00)
五六日して、上野動物園にバクを見に行くと、スケッチブックに何やら描いている佐竹がいた。声をかけると、話したいことがあるという - IA03237 (2023-02-07 評価=5.00)
「僕のスケッチは一枚20円位で売れるのです。嘘は嫌いです。滝廉太郎という匿名で作曲した荒城の月を、山田耕作に売ったという馬場のでたらめ話は有名ですがね」と佐竹は言う - IA03239 (2023-02-08 評価=4.00)
「馬場は全然だめです。馬場の家は彼に泣かされているし、小説家の勉強をした時も本の読みすぎで書けなくなった、とばかばかしい話をしていた」と佐竹は馬場をこき下ろした - IA03240 (2023-02-09 評価=4.00)
「馬場みたいにでたらめな饒舌家が、雑誌を出すなんて浮いた気持ちになれるのがおかしいじゃないですか」と佐竹は続けた - IA03241 (2023-02-09 評価=5.00)
佐竹は「信じ過ぎるとたいへんな事になりますよ」と警告した。私が信じている、と答えると彼は「明後日、馬場と太宰治の三人であなたの下宿を訪ねる予定なんです」と言い始めた - IA03242 (2023-02-10 評価=4.00)
「雑誌の最後的プランを決める際、つまらなそうな顔をして水をさしてやろうじゃありませんか」と佐竹は山猫の檻の前で言い終えた - IA03244 (2023-02-11 評価=4.00)
その朝、私がまだ寝ているうちに馬場がやって来た。馬場は先輩からの紹介で、小説がたいそう上手だという太宰治という男に逢った話をした。恐ろしくいやな奴だったという - IA03245 (2023-02-11 評価=3.00)
馬場「太宰治は頭は丸坊主、蒼黒く大きい油顔、眉毛は短くまっ黒で、額にはしわが二筋。身長五尺七寸(172cm)、体重十五貫(56kg)、足十一文(26cm)、年齢三十前」