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疑惑 (芥川龍之介) 33分割入力文の数= 33 <<  1  2   >>

1891年に岐阜県で発生したM8.0の大地震。男はこの時妻を殺したのか? 再婚話が彼の心を苦しめる。芥川龍之介の深層心理を反映したとも言われる傑作

作家や目的で選ぶ

  • ミステリ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    393
    IA03631 (2023-08-07 評価=4.00)

    10年余り前、私は講演を行うため岐阜県大垣町へ滞在した。その際、普通の旅館を避けて素封家の別荘に宿泊したが、そこで耳にした悲惨な出来事のてん末を話そうと思う
  • ミステリ
    投稿 TypetrekJさん
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    433
    IA03632 (2023-08-07 評価=5.00)

    私の部屋は落ち着いた八畳間で、毎日午前中講演に行き、午後と夜はこの座敷で泰平に過ごす事ができた。ただ午後は時折来る訪問客に気がまぎれるが、夜は寂しく感じる事もあった

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    投稿 TypetrekJさん
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    402
    IA03633 (2023-08-08 評価=3.00)

    床の間には青銅の瓶と楊柳観音の軸があり、線香が匂っているような心もちがした。私はよく早寝をしたが、すぐ眠れるわけでもなく、夜鳥の声で住居の天守閣を想像した
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    投稿 TypetrekJさん
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    386
    IA03634 (2023-08-08 評価=3.00)

    講演日数が終わろうとする夜、私が書見にふけっていると、奥のふすまがあいた。奥には四十恰好の男がきちんと座っており、私が驚くと彼は次のような言葉を述べた

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    投稿 TypetrekJさん
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    319
    IA03635 (2023-08-09 評価=4.00)

    彼はまず非礼を詫び「お願いしたい儀がある」と言った。彼は年配で品がよく、半分白髪で正装の和服を着用していたが、私は彼の左手の指が一本欠けているのに気付いた
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    投稿 TypetrekJさん
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    347
    IA03636 (2023-08-09 評価=4.00)

    私は少々唐突な訪問に腹立たしく思っていたが、男が「私は中村玄道と申し、毎日先生のご講演を伺いに出ております。ご指導お願いします」と言ったので、彼の来意がのみこめた

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    374
    IA03637 (2023-08-10 評価=4.00)

    男は自分の身のふり方について意見を承りたい、と前置きしてから「今から二十年ばかり以前、思いもよらない出来事に出合い、自分がわからなくなってしまったのです」と言った
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    投稿 TypetrekJさん
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    363
    IA03638 (2023-08-10 評価=3.00)

    私は躊躇したが、男は「是非の判断は伺わなくても構いませんので、私の頭を悩ます問題の苦しみだけでもお耳に入れて、私自身の心やりにしたいのです」と嘆願するように言った

  • ミステリ
    投稿 TypetrekJさん
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    383
    IA03639 (2023-08-11 評価=4.00)

    私がわざと気軽な態度を装い「とにかく話だけ伺いましょう」と言うと、男は「私には本望すぎるくらいです」と感謝しながら、抑揚に乏しい陰気な調子で話を始めた
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    387
    IA03640 (2023-08-11 評価=4.00)

    ■(男の話) 濃尾大地震の起こった明治24年(1891)、私は二三年前に県の師範学校を首席で卒業しておりましたので、藩侯の建てたK小学校に月15円の高給で奉職しておりました

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    投稿 TypetrekJさん
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    371
    IA03641 (2023-08-12 評価=5.00)

    私は2年前に結婚し、無口ですが素直な妻と二人、安らかな日々を過ごしていました。しかし、10月28日午前7時頃、私が井戸端、妻が台所にいる時に、地震で家がつぶれたのです
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    投稿 TypetrekJさん
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    419
    IA03642 (2023-08-12 評価=5.00)

    地鳴りとともに家がかしぐと、私はひさしの下敷きになりました。はい出してみると、周囲は屋根が落ちた家々ばかり。さらに幾千人の人々が逃げ惑って騒然としているのです

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    投稿 TypetrekJさん
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    440
    IA03643 (2023-08-13 評価=5.00)

    すぐ、妻の小夜が、梁に下半身を圧されて苦しんでいるのを見つけました。妻は「どうかして下さい」と訴えますが、梁を押したり引いたりしても、全く動きません
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    375
    IA03644 (2023-08-13 評価=5.00)

    そのうち、黒煙が私の顔へ吹きつけ始めました。私は妻を引きずり出そうとしましたが、動かせません。妻は血まみれの手で私の腕をつかみ「あなた」と一言申しました

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    317
    IA03645 (2023-08-14 評価=5.00)

    私は表情を失った妻の顔を見つめ、彼女は生きながら焼かれて死ぬのだ、と思いました。妻が「あなた」とまた言いました。その言葉に私は無数の意味と感情を感じたのです
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    309
    IA03646 (2023-08-14 評価=5.00)

    私は瓦を取り上げ、何度も妻の頭に打ち下ろしたのです。その後、私は火と煙に追われながらも生き残りましたが、夜炊き出しの握り飯を手にした時、とめどなく涙が流れました

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    投稿 TypetrekJさん
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    304
    IA03647 (2023-08-15 評価=5.00)

    ■ こんな話を聞かされた私も、寒気が襟元まで押し寄せたような心もちがした。中村玄道は低い声で、話を続けた
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    投稿 TypetrekJさん
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    379
    IA03648 (2023-08-15 評価=5.00)

    ■ 私は妻の死を悲しみ、また親切な同情の言葉も受けましたが、妻を殺した事だけは口に出しませんでした。私の臆病が原因と思っていましたが、もっと深い所に原因がありました

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    投稿 TypetrekJさん
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    403
    IA03649 (2023-08-16 評価=4.00)

    その原因は私に校長から再婚話が起こった時にわかりました。その再婚話の相手は、先生の宿泊されているこのN家の二番娘で、私が時々出稽古もしていた教え子の姉でした
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    投稿 TypetrekJさん
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    388
    IA03650 (2023-08-16 評価=5.00)

    N家とは家格が違いますし、家庭教師だった事で、痛くない腹を探られるのもいやで私は一応辞退しました。が、校長はさまざまな理由を並べ立てて、根気よく私を説得しました