「河童(かっぱ)」は、若い男が摩訶不思議な河童の世界に入り込む冒険譚。的確な人間観察をベースに社会を鋭く風刺する、芥川龍之介渾身の代表作です
- IA00624 (2020-02-01 評価=4.00)
また、マッグという哲学者は醜く、家にいて本ばかり読んでいるため追いかけられることはありません。しかし、どうかすると、雌の河童に追いかけられたい気も起こるそうです - IA00625 (2020-02-01 評価=4.00)
■七■ 僕は詩人のトックとたびたび音楽会へも出かけ、ある時哲学者のマッグと一緒になりました。クラバックという名高い作曲家が譜本をかかえて壇上へ上がってきました - IA00626 (2020-02-01 評価=4.00)
クラバックが自作のリイドを弾きはじめると、会場の後ろの席にいた身の丈抜群の巡査が大声で「演奏禁止」と怒鳴りました - IA00627 (2020-02-01 評価=4.00)
それから先は大混乱です。「警官横暴」などの声が湧き起こり物が飛んでくるのです。河童には耳がないので音楽は演奏禁止になることがある、とマッグが言います - IA00628 (2020-02-02 評価=4.00)
大騒ぎはいよいよ盛んになり、クラバックは傲然と威厳を保ちながら、ものをよけています。しかし、マッグは脳天に空き壜が落ち、気を失ってしまいました - IA00629 (2020-02-02 評価=4.00)
■八■ 硝子会社社長のゲエルに書籍製造会社の工場を見せてもらいました。水力電気を動力にした大きな機械は、種々の大きさの書籍を一年に七百万部も自動的に製造します - IA00630 (2020-02-02 評価=4.00)
新しい機械が新案され大量生産が行われるようになると、一般に大勢の職工が解雇されます。しかしストは起こりません。職工をみんな殺してしまって肉を食料に使うからです - IA00631 (2020-02-02 評価=4.00)
私の質問にベップは「餓死したり自殺する手数を国家的に省略するのです。有毒ガスをかがせるだけです」と答えました。僕はゲエルが勧めた肉に辟易し、逃げだして嘔吐しました - IA00632 (2020-02-04 評価=4.00)
■九■ それでも、僕はたびたびゲエルの属している倶楽部で愉快に一晩を暮らしました。ある晩ゲエルは、河童全体の利益を標榜するクオラックス党内閣の話を始めました - IA00633 (2020-02-04 評価=4.00)
「党は政治家ロッペに、ロッペはプウ・フウ新聞に、プウ・フウ新聞は社長のクイクイに支配されているのです。だがクイクイを支配するのは自分です」とゲエルが言いました - IA00634 (2020-02-04 評価=4.00)
「しかし厄介なことにこのゲエル自身さえ他人の支配を受けているのです。それはわたしの妻ですよ。美しいゲエル夫人の支配を受けているのです」とゲエルは大声で笑いました - IA00635 (2020-02-04 評価=4.00)
さらに、ゲエルは「七年前の戦争などはある雌の河童のために始まったものに違いありません」と河童とカワウソの戦争について語り始めます - IA00636 (2020-02-05 評価=4.00)
「雌の河童は亭主に青酸カリを飲ませようとしましたが、誤って客のカワウソに飲ませてしまい戦争になったのです。戦争中には石炭殻を戦地へ送りました」とゲエルは続けました - IA00637 (2020-02-05 評価=4.00)
そこへはいってきた給仕から、隣家が火事だと聞いたゲエルは、驚いて立ち上がりました。しかし火が消えた事を知ると、隣家は貸し家なので保険金がとれると微笑しました - IA00638 (2020-02-05 評価=4.00)
■十■ 学生のラップがふさいでいます。妹との小さな喧嘩に叔母やおやじも参加し大騒動になってしまったそうです。ラップの弟はおふくろの財布を盗み外出してしまいました - IA00639 (2020-02-05 評価=4.00)
僕はラップを音楽会で知り合ったクラバックの家につれ出しました。しかし、ラップは贅沢なクラバックの家の様子を恐れたと見え、黙って部屋の隅に腰をおろしてしまいました - IA00640 (2020-02-07 評価=5.00)
音楽家のクラバックは、彼の音楽へのひどい批評に怒ると、さらにロックという音楽家についての僕の意見に興奮して、素焼きの人形をひっつかみ、床の上にたたきつけました - IA00641 (2020-02-07 評価=4.00)
クラバックは「僕は天才だ。ロックは恐れていないが、あいつだけにできる仕事をしているから、僕はいつの間にか影響を受けてしまうのだ。いらいらする」と悔しそうです - IA00642 (2020-02-07 評価=4.00)
さらにクラバックは哲学者のマッグを非難し、著書を投げつけました。余りの不機嫌さに家を出ると、ちょうど詩人のトックがクラバッグの家に来る所でした - IA00643 (2020-02-07 評価=4.00)
トックは冷や汗を流しながら「自動車の窓から緑色の猿が首を出した」と妙な事を言い出しました。医者に行くよう勧めると、気分を害したように帰って行きました